言葉のつながり2

中学校で英語を教えています。英語を磨くことは、日本を磨くこと、そして「ことば」を磨くこと。日々の思いでつながれますように。

『日本語は京の秋空』 金田一春彦著 読了

この間届いた『日本語は京の秋空』 金田一春彦 著

軽い語り口でサクサクと読めました。
それでいて、さすがは金田一氏の著、日本語表現や日英比較対照に関して、なかなかに面白い記述がいろいろと書かれてありました。

...

恋文ーラブレター の項では、
二葉亭四迷が"I love you."の訳に困って、「死んでもいい」と訳したという逸話を紹介した上で、
P16.「日本語の心理的表現で、一番種類の少ないものは恋愛に関する語彙だという。フランス語、スペイン語などは、愛の表現が無限といってよいほどあるそうだ。ヒンディー語タイ語でも、日本語に訳せば歯の浮くような恋愛表現を平気で口にするという。河盛好蔵氏によると、欧米の小説を翻訳する時、一番スラスラゆくのは自然描写であり、一番へたなのは恋愛の場面だという。
それでは、日本人は恋愛に関心が少なく、自然だけを愛でる民族かといえば決してそんなことはない。たとえば百人一首を読んでみると、恋に関する歌が非常に多いことに気づかれるだろう。」

高校時代からツンデレ系女子としては、なんとなく分からないでもないのですが(笑)、
日本人の和歌などにおける「ことの葉」の細やかさも、また好みでもあります。

P19.「筆者がうらやましく思うのは、本人はそのつもりがないのに、歌は後世まで残っていることだ。たとえば、
長からむ心も知らず黒髪の
乱れてけさはものをこそ思へ
という歌がある。」

平安朝の人々の情熱が伝わってくるような・・・。

人との関わり の項では、

P64.「たとえば、「気にする」「気がおける」「気がね」などの言葉に出てくる「気」。
日本語独特の意味が含まれていて、これを英語に訳すことは難しい。「気づかい」と「心づかい」とでは意味が微妙に違う。「心づかい」の方が温かい気持ちのこもった意味に使われ、「気づかい」はもう少し軽い意味になる。「気を許す」「気を悪くする」「気づまり」というふうに列挙してみると、この語の持つ意味が何となく伝わってくる。「心」とも違う、自分と他者との間に言わず語らずのうちに伝わりあう、微妙な雰囲気とでも表現したらいいのだろうか。英語のmind, heart, moodなどの単語を足し合わせた語ということになる。」

英語教師としては、こういう英語に直訳できない表現を、いかにでは上手く表現するか(名詞表現→動詞表現など品詞を変えてみたり)、その選択・表現の幅を増やすことに苦心したりもするのですが・・・

いや、なかなかに興味深く読めました。